映画『パラサイト 半地下の家族』は、2019年に公開された韓国の社会派スリラー映画です。監督はポン・ジュノで、第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞しました。日本では2020年1月10日に公開され、興行収入は約40億円を記録しました。
※ネタバレがありますので、まだ見ていない方は見てから読むことをオススメします。(アマプラやNetFlix等で見られます)
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作品のあらすじ、登場人物
映画のあらすじ
『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
仕事も計画性もないが楽天的な父キム・ギテク。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続ける息子ギウ。美大を目指すが予備校に通うお金もない娘ギジョン。しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“半地下住宅”で暮らす貧しい4人家族だ。
「僕の代わりに家庭教師をしないか?」ギウはある時、エリート大学生の友人からアルバイトを頼まれる。そして向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった。 パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…。“半地下”で暮らすキム一家と、“高台の豪邸”で暮らすパク一家。相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく–。
映画の主人公は、半地下(パンジハ)に住む貧しいキム一家です。
東京より家賃が高いソウルでは、一般的な住宅とは別に半地下(パンジハ)と呼ばれる家賃5万円程度の格安物件があります。集合住宅の半地下部分にある住居で、日当たりが悪くカビやすく、天井も低くて人間の身長よりも低い場所もあるような劣悪環境です。
考察:映画に隠されたメッセージなど
- 映画のタイトルである「パラサイト」は、「寄生虫」という意味ですが、この映画では誰が誰に寄生しているのでしょう?一見すると、キム一家(貧困層)がパク一家(富裕層)に寄生しているように見えますが、実はそれだけではないのです。
確かにキム一家は、パク一家から経済的な利益を得ていますし、それだけではなく彼らの生活や価値観にも影響を受けています。しかしその一方で、パク一家もまた、キム一家から人間的な温かさや楽しさを得ています。そしてまた、彼らの存在や行動にも左右されています。つまり、両家族は互いに寄生し合っている関係だということが言えます。
ただし、この関係は平等ではありません。
- 映画では、「臭い」というモチーフが何度も登場します。
パク一家はキム一家や他の貧困層から発せられる独特の「臭い」を嫌悪しますが、それは彼らが社会的な階級や身分を意識していることを示していると言えましょう。パク一家はキム一家を自分たちと同じ人間として扱わず、単なる雇用者や道具として無意識に見下しています。また、「臭い」はキム一家自身にも自己嫌悪や劣等感を抱かせます。キム一家はパク一家に近づきたくても近づけない距離感を感じてしまいます。 - 両者のこうした距離感は、「階段」というモチーフでも絶妙に表現されています。
映画では、「上」と「下」が対比的に描かれています。「上」は裕福で明るく開放的な世界を、「下」は貧困で暗く閉塞した世界を表しているのです。
パク一家の邸宅は丘の上にある一方で、キム一家の半地下住まいは谷の下にあります。キム一家はパク一家の邸宅に行くためには階段を上らなければならない一方、パク一家側からキム一家の半地下住まいに行くことはありません。
また、パク一家の邸宅の地下室には、もう一つの階段があります。そこには、パク一家が知らない秘密が隠されています。映画のクライマックスでは、キム一家とパク一家との間にある階級や身分の差が激しく衝突します。 - 映画のラストシーンでは、キム一家の息子ギウが、父親ギテクを救うために、「パク一家の邸宅を買い取って、地下室に潜り込んだギテクと再会する」という夢を語ります。しかし、この夢は現実になる可能性はほぼゼロに近いのです。
ポン・ジュノ監督がインタビューで語ったところでは、「ギウの平均年収では、あの家を買うのに547年もかかる」とのことでした。まぁ、絶対ムリってことですね。
ギウは半地下住まいから抜け出すことができず、ギテクは地下室から出ることができません。彼らは「下層」に閉じ込められたまま這い上がれません。この映画では、「上」と「下」の間にある深い溝の闇示して終わります。 - 「石」というモチーフも重要な役割を果たしています。
石は、キム一家の友人であるミニョクから「富を招く」と言われて贈られたものですが、実際には石は何の力も持っていません。石は、キム一家の希望や幻想を象徴していますが、同時に彼らの運命や業(カルマ)をも表しているのです。
石は、次第にキム一家にとって重荷となり、災いをもたらします。石は、息子ギウがギテクに頭を殴られる原因にもなり、ギテクがパク一家の主を殺す武器となります。石は、キム一家が抱える社会的な不平等や不正義を暴力的に解決しようとする衝動を暗示しています。 - 「笑い」という要素も効果的に使われています。
映画の前半では、キム一家がパク一家に潜り込む過程や、パク一家の不在中に豪邸で酒盛りする場面などで、ブラックユーモアやコメディタッチの笑いが生まれます。
しかし、映画の後半では、笑いは不気味さや恐怖さに変わっていきます。ギウが頭を殴られてから後遺症でずっと不敵に笑っている場面や、ギテクがパク一家の主を殺す直前に笑う場面などで、笑いは狂気や悲哀を表現しています。笑いは、映画の雰囲気や観客の感情をコントロールする効果的な手段となっています。
- 「インディアン」について。
これは、先住民族と白人の対立や迫害を象徴したものでしょう。元々この豪邸に住んでいた元家政婦はインディアンのように追い出されてしまいましたし、物語の終盤にインディアンの仮装をしたパク社長とギテクも最後には命を落としたり逃亡したりしました。 - 「モールス信号」が、地下室から送られるメッセージとして使われていました。
元家政婦の夫グンセは夜中に冷蔵庫から食料を取るために地下室から出てきましたが、その時に目撃したパク家息子ダソンはおばけだと思って気を失ってしまいました。
ダソンはボーイスカウトだったためにモールス信号を理解できるし解読していたのに、彼は地下室から送られるモールス信号を無視し続けました。
- パク家息子ダソンが描いた「絵画」について。
彼は芸術的な才能があると母親に思われていますが、実際に描かれているのは地下室から出てきたおばけです。そのおばけは元家政婦の夫グンセであり、彼が描いた絵にもその特徴がよく捉えられています。グンセに気をつけろというメッセージが込められているようにも読み取れます。
まとめ
映画『パラサイト 半地下の家族』は、貧富の差や階級闘争という社会的な問題を鋭く描いた作品です。
それだけではなく、人間関係や人間性という普遍的なテーマも掘り下げています。
映画では、「パラサイト」という言葉が多義的に使われていますが、それは誰もが誰かに寄生し、誰かから寄生されているという現実を示しています。しかし、その関係は平等ではなく、不公平で不安定です。
映画は、「上」と「下」の間にある断絶や矛盾を見せつけていますが、それを解決する方法や答えを提示しません。視聴者に観客に考えさせる余地を残しているのです。
みなさんは、この映画を見て何を感じたでしょうか?
「下」の人々は皆、自分が日々生きていくのに精一杯。
「上」の人々も皆、自分がもっと気持ちよくなるために精一杯。
人々が自分のことばかり考えている世の中では、あらゆる格差は拡大していく一方でしょう。
人はどのみち、誰か他人に寄生しなければ生きていけない生物なのに、「上」の人々は「下」の人々を見下し、自分とは関係無い物のように扱います。
下から上へ這い上がった者もまた、下の者を「努力不足だ」と見下し、初めから上にいる者もまた、自らの運の良さを過小評価し下の者を見下します。
上と下の人間達の間には、果たしてどの程度の差があるというのでしょうか?
ほんの少しの運、運命の歯車が掛け違っただけで、上にも下にも行くのがこの世の中であって、中身の人間は所詮動物としてに「人間」。
似たようなものであり、大した違いなど無いのだとすれば。
我々は、この格差社会を許容して、諦めていていいのでしょうか?
自分達が今日、今から出来ることはなにか?私も考えて、行動し続けていきたいと思います。
画像など:(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
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